熱血漢社労士 西村介延 の 日誌 | 経営者会報 (社長ブログ)
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「労働事件審理ノート」勉強会しました。退職金について
みなさま、こんにちは。
熱血漢社労士 西村介延 です。
先週に引き続いて、労働事件審理ノート 第3版 の勉強会を行いました。
退職金請求権について と 労災について。
労災は、裁判で争われることが多い 脳・心臓疾患による過労死や心理的負荷による精神疾患について話し合いました。
しかし、こちらは別に後日かきます。
関心のあるかたは、審理ノートの9章のほか、「労働関係訴訟」10章・弘文堂「公法系訴訟実務の基礎」事例11 を参照してください。
労働関係訴訟では過労でくも膜下出血になり障害が残った事例を扱っています。
審理ノートでは、過労や精神疾患については参照通達をあげてるだけなんで、補足が必要です。
公法系訴訟実務の基礎では、不支給決定や支給決定がなかなか出ないときの争い方を中心に書いてます。
どちらも報告の基礎資料で使用したものです。
きょうは退職金について書いておきます。
退職金をめぐっての争いの多くは、懲戒解雇のとき や 競合する事業に就職したり起業したときの不支給・減額をめぐってのことが多いです。
取締役と兼務するときの支給額をめぐっても争われることが多いようです。
退職金は労働基準法では任意のもので、支給するときは要件を明示せよといってます。
その性質は賃金の後払いと功労褒賞の2つだとされています。
訴訟で支給を求めるときの要件(請求原因)は・・・。
①労働契約を結んだこと
②就業規則や労働協約の退職金支給規定があること
先にも書いたように、退職金は支給するかどうか、法律が強制してませんので、支給を求めるほうで規定があるので支給を受 ける権利があると言わないといけません。
③上記規定による退職金支給要件の基礎になる事実
何年勤続して定年退職だから、いくらの支給 のように、自分が②のどこにあてはまるかを具体的に言ってちょうだい
④退職の事実
とされています。
これに対して、 使用者側の反論(抗弁)としては、
①退職金の不支給・減額を根拠づける規定
例えば、長年の功労を抹消・減殺するだけの著しい背信行為があったとき など
②そのような不支給・減額を受けるほどの背信行為を行った事実
を主張して、支給要件の存在を認めつつも、不支給・減額を主張するもの とされています。
懲戒解雇イコール退職金不支給 と思われがちですが。
懲戒解雇そのものは有効でも、退職金の全額不支給までは無理・・・というケースもありうるというのは大事かも。
その不支給・減額を規制するものとして、形成された概念が、長年の功労を抹消・減殺するほどの著しい背信行為を行ったこと
というものなんですよね(審理ノート 136ページ 労働関係訴訟 200ページ)。
多くの企業では就業規則や労働協約・個別の労働契約で退職金規定をおいていて、その規定にもとづいて請求することが多く、その場合は権利としての請求なので、賃金の後払いと考えられ、不支給・減額はおきにくいのかもしれません。
ただ、こうした性質論から直ちに結論を出すことができるかは??ですが。
裁判で争われた事例としては、
東京の某私鉄の車掌さんが痴漢して懲戒解雇され、退職金を支給されなかったことを争ったものがあります。
最近争われることの多い事例として、競業を避ける義務に反して競業会社に就職したり競業会社を起業したりして、現に競業業務を行った場合があります。
これは「労働事件審理ノート」 には出てませんが、「労働関係訴訟」で触れています。
取締役の場合ですと、在職中の競業行為について、会社法356条1項1号・365条1項・423条2項で定めてます。
356条は取締役会がない会社・365条は取締役会のある会社のケースで、423条は会社が取締役に損害賠償を求めるときに競業行為を行った取締役の得た利益は会社の損害額と推定する規定です。
(取締役の競業行為について、詳細は 判例タイムズ社 「類型別会社訴訟」Ⅰ卷 5章参照。これも東京地裁裁判官の共著です)
しかし、労働者の場合には、在職中の競業行為を規制する規定はありません。
ありませんが、労働契約が賃金の対価として労働力の提供を求めるものなので、契約の性質上、誠実な労務提供が求められます。
在職中の競業行為はこの性質に反するもので、債務の本旨に従った履行をしていないものとされます。
ですから賃金に見あう労働提供すべき債務を履行しないものとして損害賠償がありうるし、就業規則等で定めれば退職金の不支給も可能です。
他方、退職後の競業行為は、就業規則または個別の労働契約か誓約書で定めることが多いようです。
ただ、その場合にも、地域の限定や制限される年数の制限などが広すぎて、職業選択の自由(憲法22条)を制限する場合には、下の再抗弁に出てくるような、公序良俗に引っかかる可能性があるとされています。
労働者の再反論(再抗弁)は、この不支給・減額条項が公序良俗に反し無効(民法90条)を主張するとされます。
使用者の主張(抗弁)を前提に、あらたに労働者の主張を展開するものとして、再抗弁とされます。
そうではなくて、不支給・減額の条項を前提に、これに定める要件に当らないという主張をする場合は、ホントにあたらないかを裁判所が証拠調べすることになります。
この場合、不支給・減額条項に当る行為をした という相手の主張を否認しているので、それ以上に議論が展開せず、そこで議論が終わってしまうからです。
ちょっと議論になったのは、原告が請求原因で退職金支給規定を主張しつつ、再抗弁で同じ規定の不支給・減額の公序良俗違反を主張するのは矛盾するのではないか??ということです。
しかし、民事訴訟の主張責任からいうと、自己に有利な法律効果の要件たる事実を主張しないときには、その要件を定めた法規を適用されない不利益を受けます。
そうすると、原告は自己に有利な支給要件を定めた規定の存在を主張し、被告は自己に有利な不支給・減額規定の存在を主張していけばよく、原告がさらに自己に有利なその無効主張をしても、別段矛盾でもない・・・という結論になりました。
先週の時間外・休日労働手当ほどには盛り上がりに欠けました。
ちょっと抽象的な議論になりやすく、退職金の性質論から説明しきれるのかどうか や 不支給・減額の抗弁のレンジが正確につかめなかったためかも・・・。
次回は労働者を解雇した場合に地位確認を求めて労働者が争ったときの攻防を考えようと思ってます。
熱血漢社労士 西村介延 です。
先週に引き続いて、労働事件審理ノート 第3版 の勉強会を行いました。
退職金請求権について と 労災について。
労災は、裁判で争われることが多い 脳・心臓疾患による過労死や心理的負荷による精神疾患について話し合いました。
しかし、こちらは別に後日かきます。
関心のあるかたは、審理ノートの9章のほか、「労働関係訴訟」10章・弘文堂「公法系訴訟実務の基礎」事例11 を参照してください。
労働関係訴訟では過労でくも膜下出血になり障害が残った事例を扱っています。
審理ノートでは、過労や精神疾患については参照通達をあげてるだけなんで、補足が必要です。
公法系訴訟実務の基礎では、不支給決定や支給決定がなかなか出ないときの争い方を中心に書いてます。
どちらも報告の基礎資料で使用したものです。
きょうは退職金について書いておきます。
退職金をめぐっての争いの多くは、懲戒解雇のとき や 競合する事業に就職したり起業したときの不支給・減額をめぐってのことが多いです。
取締役と兼務するときの支給額をめぐっても争われることが多いようです。
退職金は労働基準法では任意のもので、支給するときは要件を明示せよといってます。
その性質は賃金の後払いと功労褒賞の2つだとされています。
訴訟で支給を求めるときの要件(請求原因)は・・・。
①労働契約を結んだこと
②就業規則や労働協約の退職金支給規定があること
先にも書いたように、退職金は支給するかどうか、法律が強制してませんので、支給を求めるほうで規定があるので支給を受 ける権利があると言わないといけません。
③上記規定による退職金支給要件の基礎になる事実
何年勤続して定年退職だから、いくらの支給 のように、自分が②のどこにあてはまるかを具体的に言ってちょうだい
④退職の事実
とされています。
これに対して、 使用者側の反論(抗弁)としては、
①退職金の不支給・減額を根拠づける規定
例えば、長年の功労を抹消・減殺するだけの著しい背信行為があったとき など
②そのような不支給・減額を受けるほどの背信行為を行った事実
を主張して、支給要件の存在を認めつつも、不支給・減額を主張するもの とされています。
懲戒解雇イコール退職金不支給 と思われがちですが。
懲戒解雇そのものは有効でも、退職金の全額不支給までは無理・・・というケースもありうるというのは大事かも。
その不支給・減額を規制するものとして、形成された概念が、長年の功労を抹消・減殺するほどの著しい背信行為を行ったこと
というものなんですよね(審理ノート 136ページ 労働関係訴訟 200ページ)。
多くの企業では就業規則や労働協約・個別の労働契約で退職金規定をおいていて、その規定にもとづいて請求することが多く、その場合は権利としての請求なので、賃金の後払いと考えられ、不支給・減額はおきにくいのかもしれません。
ただ、こうした性質論から直ちに結論を出すことができるかは??ですが。
裁判で争われた事例としては、
東京の某私鉄の車掌さんが痴漢して懲戒解雇され、退職金を支給されなかったことを争ったものがあります。
最近争われることの多い事例として、競業を避ける義務に反して競業会社に就職したり競業会社を起業したりして、現に競業業務を行った場合があります。
これは「労働事件審理ノート」 には出てませんが、「労働関係訴訟」で触れています。
取締役の場合ですと、在職中の競業行為について、会社法356条1項1号・365条1項・423条2項で定めてます。
356条は取締役会がない会社・365条は取締役会のある会社のケースで、423条は会社が取締役に損害賠償を求めるときに競業行為を行った取締役の得た利益は会社の損害額と推定する規定です。
(取締役の競業行為について、詳細は 判例タイムズ社 「類型別会社訴訟」Ⅰ卷 5章参照。これも東京地裁裁判官の共著です)
しかし、労働者の場合には、在職中の競業行為を規制する規定はありません。
ありませんが、労働契約が賃金の対価として労働力の提供を求めるものなので、契約の性質上、誠実な労務提供が求められます。
在職中の競業行為はこの性質に反するもので、債務の本旨に従った履行をしていないものとされます。
ですから賃金に見あう労働提供すべき債務を履行しないものとして損害賠償がありうるし、就業規則等で定めれば退職金の不支給も可能です。
他方、退職後の競業行為は、就業規則または個別の労働契約か誓約書で定めることが多いようです。
ただ、その場合にも、地域の限定や制限される年数の制限などが広すぎて、職業選択の自由(憲法22条)を制限する場合には、下の再抗弁に出てくるような、公序良俗に引っかかる可能性があるとされています。
労働者の再反論(再抗弁)は、この不支給・減額条項が公序良俗に反し無効(民法90条)を主張するとされます。
使用者の主張(抗弁)を前提に、あらたに労働者の主張を展開するものとして、再抗弁とされます。
そうではなくて、不支給・減額の条項を前提に、これに定める要件に当らないという主張をする場合は、ホントにあたらないかを裁判所が証拠調べすることになります。
この場合、不支給・減額条項に当る行為をした という相手の主張を否認しているので、それ以上に議論が展開せず、そこで議論が終わってしまうからです。
ちょっと議論になったのは、原告が請求原因で退職金支給規定を主張しつつ、再抗弁で同じ規定の不支給・減額の公序良俗違反を主張するのは矛盾するのではないか??ということです。
しかし、民事訴訟の主張責任からいうと、自己に有利な法律効果の要件たる事実を主張しないときには、その要件を定めた法規を適用されない不利益を受けます。
そうすると、原告は自己に有利な支給要件を定めた規定の存在を主張し、被告は自己に有利な不支給・減額規定の存在を主張していけばよく、原告がさらに自己に有利なその無効主張をしても、別段矛盾でもない・・・という結論になりました。
先週の時間外・休日労働手当ほどには盛り上がりに欠けました。
ちょっと抽象的な議論になりやすく、退職金の性質論から説明しきれるのかどうか や 不支給・減額の抗弁のレンジが正確につかめなかったためかも・・・。
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